徒然雑記



日本一のサービス業

花屋さんは業種別に見ると小売業に分類されると思うが
花という商品自体には金やプラチナのように物質的な価値はない
でも一瞬の華やかさを見事に演出する事ができ
その商品が人を感動させたり喜ばしたり癒しを与えるという意味において
花屋さんは半分サービス業であるとも思う。

この世に花というものがなかったらどんなに殺風景な世の中だろう...


デパートの開店に合わせて店に入ると綺麗な衣装に身を包んだデパガ達が
深々とお辞儀をして出迎えてくれる
その行為を「とても気分がいい」と言う人がいるが、私はそうは思わない。
それは形だけのものであり、そこには人と人の心のふれあいはない、あくまで形式的なものだ。

小売業やサービス業にとって大切な事は何か
丁寧な言葉使いか、
礼儀正しい作法か、
決められた角度でお辞儀できるか、そんなどころのレベルではない

最も大切な事は、いかに顧客のニーズを引き出しそれに合ったサービスを提供できるか、
ではないかと思う。
そして限られた予算の中で顧客が求めている事以上の事が出来れば
その企業は規模の大小にかかわらず一流と言えるだろう。


私はあるサービスを提供する会社から、とても質の高いサービスを受けた事がある。
そのサービスはあまりにも突拍子で
サービスと言えばサービスだし、
サービスでないと言えばそんなものサービスでないと言われるかもしれない。
でも結果的に私はとても気分よくその場を後にする事が出来た。
今でもその事が忘れられないぐらい印象に残っている。思い出すとおかしくて笑みがこぼれる。

その質の高いサービスを受けた会社とは
(株)オリエンタルランド 通称、東京ディズニーランドである。

なぜ、女性や子供がディズニーに行きたがるのか理解が出来なかった。
同じような楽しい遊園地ならもっと近場でナガシマスパーランドとか富士急ハイランドとか
パルケエスパーニャとかあるのに、わざわざそんな遠くまで夜行バスに乗ってまで行くのか分らなかった。

そんな私でも人生3回目にディズニーに行った時に少し理解できた気がした。

あれは長女がまだ11ヶ月の赤ん坊の頃で1月の寒い時期だった。雨が強く降っており
正直気がすすまなかった。
友達夫婦と予定を合わせて行く事になっていたので雨だから
中止にするなんて事は出来なかった。

その事があったのは多分ディズニー2日目の事だったと思うが、
赤ん坊に授乳させておむつをかえる為、妻とベビールームに行った。
ベビールームの中ではおっぱいをやっている他のお母さん方もいる為、
さすがに中に長い時間いるのは抵抗があったので、
私はベビールームの入り口付近で待っている事にした。

ベビールームのすぐ横にはミッキ―達が出入りするドアが少し奥まった所にあり、
なにやら慌しく小走りに出たり入ったりしている。

入る時に必ずみんなこちらを見て手を振ってくれる。
こちらも苦笑いで手を振り返す(そんな気を使ってくれなくてもいいのに)
そんな風に思っていたと思う。
結構強い雨が降っており、膝から下は雨に濡れ靴の中もつま先とカカトから雨が入り込み
指先が冷たい(早く帰りたい...)

そんな時、ミッキ―達がドアから勢い良く飛び出して来た。
こちらに手を振りながら走って行く。
出てくるは出てくるは、長い行列になってみんな雨の中を走って行く。
これで終わりかな〜と思っていると少し遅れて最後にドナルドが出て来た。
ドナルドは私を見つけると皆の方には行かず、なぜかこちらに向かって走って来た。

そして身振り手振りで私にゼスチャーしてくる、最後に私達のベビーカーを指差して何やら
伝えようとしている。
私は赤ちゃん見たいのかな〜と思い。
「赤ちゃん見たいの?、ごめんね今オムツ代えてるんだ」
そう言ったが、ドナルドは首を横に振ってまたベビーカーを指差す。
「えっ、どうしても見たいの?連れてこようか?」
と言ってベビールームに入ろうとする私の手をつかみ、また首を横に振っている。
「あっ、そうだよね、男子禁制だね、ごめんね、じゃあ出て来るまで待ってる?もうすぐ来るから」
と聞くと、また首を横に振ってベビーカーを指差す。
「え〜っ、何だろう?」
よく見るとドナルドはベビーカーではなく、ベビーカーにかけてあった傘を指差している。
それに気づいたとたん、私の頭の中はぐるぐる回ってドナルドのゼスチャーがパズルのように組みあがった。
ドナルドの言いたかった事が分るとおかしくておかしくて、笑いながら
「もしかして、雨が降っているからアーケードまで傘をさして連れてってくれって言いたかったの?」
と聞くと、ドナルドは首を縦に大きくうなずいた。

アーケードの方を見るとミッキ―達が早くおいでと言わんばかりに待ってくれている
あるものは手招きして、あるものは走る格好をして早く早くとせかしている。
私は腕を組まれ、雨の中を大きな頭のドナルドに傘をさしてあげて自分は雨に濡れながら走っていく。
まわりからはクスクスと笑い声が聞こえてくる。もう恥ずかしいやら照れくさいやらで、
アーケードに着くと私達は拍手で迎えられドナルドは私に抱き着いて
握手して「ありがとう」と言っているようだった。


ドナルドのしてくれた行為があまりにもおかしくて、いい意味で身勝手で、自分本意で
楽しい事に巻き込もうとしている姿が嬉しくて、とても晴れやかな気分になった。
足先は冷たくても、心がぽかぽかとして明るい気分になった。

きっとベビールームの前でつまらなそうにしている私を見つけて気遣ってやってくれたんだと思う
もしかしたら、ドナルド自身が本当に雨に濡れたくない為にやっただけかもしれない(笑)

エキサイティングな乗り物よりも
きらびやかなパレードよりも
キャラメルポップコーンの甘い匂いよりも
ほんの些細なその出来事は、私にとっては生涯忘れられない最高の思い出となった。


働いている人、自らがいきいきとしていてその仕事を楽しんで、お客さんも同じように楽しませる。
つまらなそうにしている人がいないように常に回りを見て自ら考えて行動する。
そんな職員一人一人のおせっかいな行動が
結果的にお客さんが求めている事以上のサービスの提供につながっている。

「楽しくなかった」と思われて帰る人がいないようにと...

こういう事が本物のサービスではないのか、ふとそんな風に思った。


小売業兼サービス業の花屋さんにしても同じ事だ。
どんなに安価で新鮮な商品を提供できても、どんなに素晴らしい技能、技術を持っていても
そこに顧客のことを一番に考える真心とそれを伝える術がなければ、
ただ安いだけのスーパーマーケットになってしまう事だろう。












後書き:
そういえば昔、テレビで水戸黄門を見ていたら
「ご隠居、この旅館のサービスは日本一ですね〜」と、うっかり八兵衛さんが言っていた
あの時代にサービスという言葉は無いはず。ついうっかり言ってしまったのだろうか...


徒然書 2007/10/28 AQ
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